2013年4月29日月曜日

アルカイックスマイルと内臓の滋養


今から22年前、京都を訪れた時に初めて広隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像を間近で見ました。そのあまりの美しさに衝撃を受け、しばらくその場に立ち尽くしたのを覚えています。

後に、この仏像がたたえているほほ笑みが、英語ではアルカイックスマイルと呼ばれているということを知りました。

今日は、このアルカイックスマイルと、人間の内臓がどのように関係しているのか、そしてそれによって内臓を滋養する仕組みについて書きたいと思います。

中医学では、人間の内臓と関連する機能を、『五臓六腑』というように分類しています。五臓とは、肝、心、脾、肺、腎であり、六腑とは、胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦です。

五臓六腑のうち、ほとんどが現代的な内臓の呼称と対応しているので、概ねその内容を理解しやすいのですが、三焦についてはあまり馴染みがないかもしれません。三焦は、上焦、中焦、下焦にわかれ、体内の水液とエネルギーの循環を司る機能全体を指しています。三焦を体内の器官として捉えようとするとは現代的な人体の理解とやや異なるところもありますが、内分泌系やリンパを示すという説もあります。体温調節のために汗をかいたり、緊張が続くと胃が痛くなったりというようなことも、三焦の働きといわれています。

ところで、五臓六腑におけるそれぞれの漢字は、必ずしも内臓そのものを指しているわけではなく、心(しん)といえば、今でいう心臓そのものに加えて、心臓が行う作用や体内での機能を包括的に指しています。そういった捉え方が西洋医学と大きく異るところかもしれません。ですから、三焦というのも、体のある部分を指しているわけではなく、水液代謝やエネルギーの循環を統御する機能としてとらえるのが一般的といえます。

五臓と六腑の機能には、それぞれ特徴があります。五臓は体を支える器官として、それに関連する各臓器がそれぞれ個別の役割を果たし、全体的にバランスを保ちながら機能しています。六腑は、関連する臓器の殆どが空洞で(胆については胆汁という消化液を貯蔵していますが、袋状ですので空洞として考えます)、主に食物の消化機能やエネルギーの抽出、水液代謝の機能を持っています。

つまり、六腑は、食べ物や飲み物などをどのように体の中に取り入れ、エネルギーを取り出し必要のないものを排出していくか、という一つの大きなテーマを元にその役割を六腑全体で果たしている、ということになります。

それに対して五臓は、外界から見ると六腑よりもさらに体の奥に位置していることになります。ですから、最も重要なのは、奥にある五臓で、そこに外界から栄養を取り入れ運ぶために六腑が存在するということなのです。口から取り入れられた食物は、胃、小腸、大腸と進むに連れて一般的には構造が小さくなり、それぞれの器官が吸収しやすいように形を変えていきます。内臓を一つ経るごとに、体にとってはより馴染みやすいものとなっていくわけです。すると最も体にとって馴染みにくい状態の食物はどこにあるかというと、口から胃までの間ということになります。

完全に外界のものが口の中に入って咀嚼され、唾液と混ざって食道から胃に入っていくことは、消化における最も初期の段階です。よって、口の中、胃の中は、外界と体内との接触を常に行なっている場所といえます。ここを癒すのに、最もオートマチックで効果的なのが、アルカイックスマイルなのです。

人間の体の中で、最も大きな気の流れは体の中心線からやや中程を通るといわれる小周天です。小周天は会陰に始まり、背中を上行し、頭頂へ至り、その後は額から口中へと下降し、腹部を通り会陰に至る気のサイクルで、これが安定して巡らせることで肉体的にも精神的にも充実します。気功のトレーニングは多くがこの小周天をどうやって充実させるかという事に重点を置いています。

この小周天が口の中を通っている時にアルカイックスマイルをしていると、気の流れが口の中で一度滞留してから下へ流れていくようになります。気が口の中で滞留している間は、多くの唾液が出ますから、その唾液に気がたまり、それを飲み込む事で食道や胃が滋養されるのです。笑っているだけでも良いことがあると言われますが、ほんの少し笑って、アルカイックスマイルを維持するだけでも胃腸に良い効果が期待出来ます。更にこの効果を高めるためには、舌先を口蓋に軽く触れておきます。こうすることで、小周天がめぐりやすくなり、より多くの気が体内を流れることになります。

舌の先を口蓋につけて、一種の閉じた気の回路(Closed Qi Circuit)を作った状態でアルカイックスマイルをたたえると、より多くの気が体内を循環し、消化器官を滋養します。生体エネルギー的な観点で見ると、周囲からの影響も受けにくくなりますから、混雑した場所や自分が苦手な場所にいるときなどに行うのも効果的です。




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